【P.22~】文明病の本態とその根治法/『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック⑩ 知らないと怖い!文明病と生活環境病 生き方を変えれば病気は治る』

文明病の本態とその根治法

知識だけでは治らない

安保徹 医学博士・新潟大学大学院医歯学総合研究科教授

日本人の多くが過労、心の悩みを抱えて長時間、交感神経緊張の状態におかれ、生活習慣病やうつなど、社会がつくり出した文明病に罹っています。
医療の世界では、医者は原因不明のまま対症療法の薬を出しますが、根本的な治療ではないので病気は治りません。ますます増加する文明病を予防・治癒するにはどうしたらよいのでしょうか?

多くの病気は、無理な生活を続けた結果に発症する「がんばり病」です。仕事の無理や悩みごとで体が破綻する前に、体からの声を事前に察知して、生活を改めることで、病気は予防できるのです。

いまの世の中、不眠症などで病院から睡眠薬をもらって飲んでいる人が大勢いるんですね。何故かというと、仕事の無理や悩みごとがあって自律神経のうちの、交感神経が緊張していると、脈拍が速い状態が固定化して夜、眠れなくなるんです。

脈拍が速いままでいると、いつも追い立てられるような不安な感情と体調不良が出てきます。また、交感神経の緊張が続くと心臓、血管に負担がかかり、脈拍を増やして血圧を上げますので狭心症、不整脈、心筋梗塞、脳出血、クモ膜下出血のような心臓や脳の病気になります。

しかし病院では、患者さんが「体調が悪い」、「不安だ」と言うと抗不安剤などの薬を出し、患者さんはそれをもらって飲んでいますが、原因が追求されていませんので、熱心に飲んでも治ることはありません。

やり手のビジネスマンが50代で脳卒中になり、半身不随になってしまうことがありますが、この原因は、無理な生活を続けた結果のがんばり病です。ですから、誰もがあるところで踏み止まって、「これだけがんばりすぎたら危険だ」、「これだけ悩んだら我が身が危ない」と察知し、生活を改めなければなりません。

高血圧症や糖尿病あるいは狭心症、不整脈などは突然出てくるのではなく前触れがあります。

交感神経が緊張すると血管と筋肉が収縮しますから、初めに血流障害が出て顔色が悪くなり、手足が冷たくなります。そして、肩こり、こむら返り、指がつる、首が固くなる、しゃっくりが出る、子どもだったら歯ぎしりなどの筋緊張の症状が現れます。顔色が悪いということは、低体温で体が冷えているからです。冷えがくると、細胞はエネルギーを産生することができなくなり、エネルギー不足で細胞が必要とするたんぱくを合成することができなくなって体がやつれます。

また、低体温は体内の代謝物の不溶化を起こします。ほとんどの物質は温度依存性溶解をしています。たとえば、砂糖や塩をお湯で溶かすのは簡単ですが、水で溶かすのは容易でないということは、おわかりいただけると思います。

体内でさまざまな働きをしているコレステロールは、使い終わると胆汁として腸管に排出しますが、その経路で低体温のためにコレステロールが不溶化して結晶化すると胆石症になります。

アミノ酸や核酸のような窒素酸化物の代謝物は尿酸で、この尿酸が不溶化して結晶化すると針のような結晶になり神経を刺激します。これが痛風です。

また、細胞興奮(細胞機能の活性化)はカルシウムの細胞内流入で起こります。細胞内で使い終わったカルシウムの一部は骨に沈着しますが、大部分は尿から排せつされます。そこで、カルシウムが不溶化して結晶化が起こると尿路結石、腎結石になります。これらもみんながんばり病です。

尿路結石になって病院に行くと、超短波で石を破壊しますが、原因を追及して治療したわけではないので、またたまってくる可能性があります。
ですから、私たちは根本的な治療(根治)をするためには、「体を温めて代謝産物が不溶化しない生き方」をしなければいけないのです。

怒ること、寒さにさらされること、パソコンによる目の疲れ、深夜の過酷な労働は、交感神経を緊張状態にします。これらが原因で発症する病気はストレス病で、無理な生活を続けることで発症します。

実は、交感神経の緊張は怒りによっても起こります。怒ったときは、ものすごく交感神経が緊張して血圧が上昇し、一気に230mmHgぐらいまで上がります。ですから、怒り癖のある人の多くは人生の途中で亡くなっています。
あまり頻繁に怒ると我が身が危険です。私も、この理論に気づくまでは学生、大学院生に大声を上げて叱っていましたが、このごろは本気で怒りません(笑)。

また、寒さにさらされると交感神経が緊張します。昔の人は冬の寒さで体を壊しましたが、現代人は夏に職場などで強い冷房にさらされて体を壊しています。特に女性の血管は細めにできているので、寒さにさらされて血流障害が起こりやすくなっています。

目の疲れも交感神経の緊張から起こります。昔は薄暗い照明の下で行う針仕事で体を壊す人が多かったのですが、今はパソコンの画面です。パソコンの画面を深夜まで見ているような人は、だいたい40歳前後で体を壊しています。
目が疲れるような仕事を長くやってはだめです。夜の仕事も交感神経を緊張させます。私のところに相談に来る人の傾向をみていると、20代で大病をしている人たちは深夜のコンビニでアルバイトをしている人や看護師さんが多いようです。
そんなとき私は看護師さんに、夜勤のときは受け持ちの患者さんに「めったなことでベルを鳴らさないように」と言って夜勤に就くようにアドバイスしています(笑)。実際、緊急でない用事でベルを鳴らされていることもあり、このように患者さんに気楽に起こされては、看護師さんのほうが体を壊しますからね。

ところで、交感神経の緊張は白血球中の顆粒球が増えて起こることが自律神経のバランスを理解するとわかるのですが、ここで、体が治る過程を免疫から考えてみましょう。
まず、体内に細菌が侵入すると白血球中の顆粒球が細菌処理をして、化膿性の炎症を起こして治癒に入ります。ウイルスやハウスダストのようなすごく小さなものはリンパ球が抗体を作って凝集させて無力化します。
顆粒球とリンパ球は血液中にだいたい「60%対40%」の比率で分布していて、侵入する細菌や異物から私たちの体を防御しています。健康な生活をしていれば、この顆粒球とリンパ球の分布は自律神経でコントロールされているのですが、無理な生き方をしていると偏りが出てきます。
長時間労働、心の悩み、職場で強いエアコンにさらされるような状態が続くと顆粒球がどんどん増えていきます。顆粒球は骨髄で作られて常在細菌が住み着いている粘膜や皮膚の毛根で一生を終えますが、大量の顆粒球が粘膜に押しかけると、そこで常在菌と反応して炎症を起こすようになります。
その一例が猛烈サラリーマンの歯周病なんです。歯周病は遅くまで仕事をする人、悩みを抱えた人に多く、炎症とともに歯茎の血流障害も起こりますので、「血流障害→炎症」という形で、歯茎の色が赤黒いような色に悪化して、膿みが吹き出すようになります。
あまり常在菌がいないところでも、顆粒球がたくさん増えたときには顆粒球の攻撃で組織破壊の炎症を起こします。痔、突発性難聴、急性膵炎などもそうですし、急性膵炎に慢性的なストレスが加わると慢性膵炎になります。みんな無理な生活によるストレス病です。

体の組織が壊されたとき、体は血流を増やして熱を出し、代謝を亢進させて修復にかかります。潰瘍性大腸炎も腸の粘膜が破壊されて荒れますが、粘膜破壊とともに腫れが起きているときは修復反応が起きているときです。

交感神経緊張の血流障害から解放されるときにも、腫れる、熱が出る、痛むという傾向があります。たとえば、職場で辛い目に遭った女性が、帰宅するとズキンズキンと頭痛がする、受験勉強でがんばりすぎた若い女性の生理痛がきつくなるというのは、がんばった組織、筋肉の血流障害が起きて、休んだときに血流が回復して組織や筋肉繊維の修復(疲労物質の洗い流し)に入ることで痛むのです。
ですが腫れて熱が出て、痛むと、それを嫌がって鎮痛剤を使って止めにかかりますが、実はそれは間違いなんです。湿布薬や座薬などの鎮痛剤は、冷やすことで血流を止めてしまいます。せっかく血流がよくなったのを止めてしまうのですから、その結果、治らなかったり、治りが悪くなるといったことが起きます。潰瘍性大腸炎でも対症療法の薬物を使うと治る機会を失います。逆に病院に行くのをサボった人が治るのです。
血流障害と組織破壊が続くと壊れた細胞が分裂を強要され、それで起こるのが発がんです。がんもやはりがんばり病なのです。

がんになっている人は、真面目、クヨクヨする、抑圧されているというような独特の交感神経の緊張が続く生き方をしています。私たちの体は間違いを起こしません。38億年もかけて進化した生命体がしょっちゅう間違いを起こして体温や血圧の調節を失敗するわけがないのです。ただ、私たちは必要以上に無理をし、役に立たないのに悩んだりして、生き方を間違えているのです。

多くの病気は交感神経の緊張から起きますが、3割くらいの病気は楽をして起きます。ごちそうを山ほど食べるとか、めったなことで体を動かさないという楽な生き方は、副交感神経に偏りすぎて病気が発症します。

なぜ副交感神経に偏りすぎても病気が発症するかというと、ふくよかな体をひ弱な筋肉で支えることになるからです。また、最近の子どもたちの多くが疲れやすいのは、好きなだけお菓子を食べ、ジュースや清涼飲料水を飲み、外で遊ぶ機会が少ないという副交感神経に偏った生活のためです。
疲れやすい子どもたちは、授業が始まって5分もするともうクタクタで、机の上に腕を出して頭をのせてくつろぐわけです。そうすると授業内容の理解は困難です。ところが、生徒のほうはくたびれ病で授業についていけないのに、学校の先生はそういう理論を知らないので「自分の指導力が足りないのか」と悩むことになり過剰に心配して、先生はうつ病になっています。
子どもたちにもう1つ危険なことは、楽な生き方の弱点として気迫が失われることです。気迫が足りなくなるとストレスに負ける、いじめに負けるという体調になります。ですから、大事に育てられた子どもが不登校になるとか、自殺を企てるということがすごく多いのです。私たちは、筋力を発達させないとキビキビ活動できませんし、気迫も生まれません。外でクタクタになるまで遊び、筋肉、骨格を丈夫にするというような生き方が必要です。
お年寄りも気迫を失うと代謝が抑制されて生きる力が失われます。ですから、「もう歳だ」と言いはじめると間もなく死ぬのです。「まだ歳ではない」とがんばって体操をしたり、好奇心であちこちに足を運んだりする人は天寿をまっとうできます。私も実践しなければと思って、朝起きたら体操をして、突き、蹴りの練習をします。そのくらいやると気迫が生まれます。
長寿の人は自律神経レベルが真ん中か、ちょっと副交感神経寄りです。ですから、やせて、やつれているよりもふくよかなほうが長生きするのです。ただ、副交感神経に偏りすぎたときはリンパ球が過剰になり過敏の状態に入ります。リンパ球の分布が45〜50%ぐらいになると過敏になります。しょっちゅうジンマシンが出るとか、寒いところに行くとくしゃみを連発するなどは過敏です。新しい家に引っ越したら、新建材の化学溶剤に過敏に反応する化学物質過敏症となります。子どものアトピー性皮膚炎、気管支喘息は今の時代を反映しているわけです。特に甘いものはリンパ球をつくり出す力が強いので、アレルギーになったら甘いものを遮断するくらいの気迫が必要です。そして乾布摩擦、体操で体を鍛えます。

しかし、多くの人が自分で努力をせずに、喘息の発作が起きるとすぐに病院に行って抗ヒスタミン剤などの対症療法のアレルギーを抑制する薬をもらいますが、これも使いだしたら治る機会が失われます。アレルギー反応は抗原を体の外に出し、治るためのステップとして起こっているのです。花粉症で鼻水が出るのは、鼻粘膜まで入り込んだ花粉を排出しようという防御反応です。花粉が出るまで鼻をかみ続けなければダメです。アレルギー反応を薬で止めてはいけません。

職場で受けるストレスの一番の解消法は、飲み食いに走ることです。辛いことがあると酒の量が増えたり、食べる量を増やしたりして、交感神経緊張から副交感神経優位へとバランスを取るわけです。

また、ふくよかさが限界にくると、自分の体重を移動するときに息がきれ、階段を昇るとハアーハアーします。このように副交感神経優位の状態も、それが行きすぎたときに過敏状態に入り、一気に交感神経の緊張へと切り替わり狭心症、心筋梗塞、クモ膜下出血を起こします。女性は、男性よりもリンパ球が多いので長生きします。その反面ストレスが多いので過敏になり、副交感から一気に交感神経緊張になり、膠原病になりやすいのです。病気を防ぐには、病気にならない無理をしない生き方が大事です。
かつてはノイローゼとか神経症といった病名があり、神経症だったら、その人のおかれた環境の過酷さとか心の問題などを追求して原因を探るなど、さまざまな工夫をして治療に当たりました。しかし、今では、うつ病とまとめられて抗うつ剤を投与されます。患者さんも治ろうと努力しないし、医者も治そうと努力しないで対症療法の流れに入っています。
医療そのものが文明病になってしまったのではないかと思います。医療難民が増えていますが、薬で治らない病気を、薬で治そうと病院に押しかける患者さんが大勢いますが、「病気は自分で予防し、治す」ことを思い起こしていただきたいと思います。


著者情報

安保 徹(あぼ とおる)
医学博士・新潟大学大学院医歯学総合研究科教授
1947年、青森県生まれ。東北大学医学部卒業。90年、胸腺外分化T細胞を発見。96年、白血球の自律神経支配のメカニズムを初めて解明。2000年には胃潰瘍の原因が胃酸であるとの定説を覆す論文を米国医学誌に発表し衝撃を与える。免疫学の第一人者。

クレジット

取材/高橋利直
文/矢崎栄司

(『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック⑩ 知らないと怖い!文明病と生活環境病 生き方を変えれば病気は治る』より抜粋)


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