人間まるごとをみる
ホリスティック医学を志すものとして、避けては通れない
ホメオパシー医学
生命場のエネルギーが低下したとき、人は病気になります。病気になると、これを回復すべく「自然治癒力」が働きます。このとき、他からの働きかけで回復することを「癒し」、自らの努力で向上をはかることを「養生」と呼びます。この「癒し」を担うホメオパシー医学は、人間まるごとをみるホリスティック医学にふさわしい医学です。ホメオパシー医学についての過去、現在、未来をご紹介します。
ゼロからのスタートでホメオパシー医学を学ぶ
ホリスティック医学を目指している中でホメオパシー医学に出会う
「気」に関心のあるドクターの集まりで「気の医学会」という会があります。何かをやるときには30人くらい集まってやるような小さな会なんですけれども、毎年夏にどこかホテルに泊まって1泊か2泊でワンテーマの勉強会をやっています。
その勉強会のテーマは世話人会というところで決めますが、私が副会長をやっていて、企画委員長もやっているのです。だからいろいろとテーマを企画していかなくちゃいけない。
ちょうど今から10年ぐらい前の話ですけど、ホメオパシーをやってくれないかと世話人会に持ち込まれました。それで、講師を呼んできたのですけれど、そのとき私はホメオパシーについて、今のように関心があったわけではありませんでした。
でも、その前にロンドンのホメオパシー病院には行っていたんです。それはホメオパシーがやりたくて行ったのではなくて、代替療法の1つのスピリチュアル・ヒーリングをロンドンに学びに行っているときに、自由行動の日に「ホメオパシー病院の見学」を向こうにいたロンドン大学の学生が私のために計画してくれていたのです。当時はホメオパシーに対する関心はあまり湧いてきませんでした。ですから、「気の医学会」の講義も、「どうせ私が司会役をやるのだからつきあって聞いてみよう」という程度でした。
そしてぼんやり聞いていたのですが、「ただの水みたいなものがなぜ効くのか」という受講生からの質問に、「薬の霊魂が効くとホメオパシーでは考える」という回答がかえってきたのです。
「なんだって、ただの水じゃなくてそこに霊魂が住んでいると…」それを聞いたときにぱっとひらめいたのです。霊魂というのは場のエネルギーですから、これは「場の医学」だと思いました。その瞬間から急に興味を持ち始めて、それからあとの講義は一所懸命聞きましたね。
この後、さっそく「これを習うにはどうしたらいいのか」と聞くと「ロンドンに行って、しかるべきところで勉強をするのが一番いいだろう」と言われました。
しかし、現実には病院をやりながらロンドンに行くなどできない。そのとき私が考えたのは、医者の資格で診療できるわけですから別に資格はいらない、実力さえつければいい。だから、「とりあえず基礎を教えてくれないか、ただし一年ぐらいしか時間がないので、基礎中の基礎でいいから教えてくれ」と頼みました。
そうしたら、「いいですよ」という返事でした。これが私とホメオパシー医学との最初の出会いです。講義は2000年の3月に始まりました。でも、私の場合は忙しくて講義になかなか出席できないのです。初めから講義の日に講演の予定も入っていましたからね。あんまりいい学生じゃなかったと思いますよ。
ところが3月頃から勉強を始めて、そのことを私の病院の患者さんに話したら「ホメオパシーを受けたい」と希望が多くてね。最初は修行中だからダメだといっていましたが、とにかく、せっつかれて断りきれず7月頃から病院で始めました。勉強を始めて4か月ですよね。しかも、まだ何回も講義を受けていないから、手探りで独学だしそれは大変でした。「レパートリー※1」と「マテリア・メディカ※2」に首っ引きで始めました。
こちらは修行中の身で、まだ何ともつかないんだからお金なんか取れない、と言うことで無料で始めたんです。無料ということもあって、患者さんにとても人気で、わんわんやりたがるわけです。言っては悪いけれど、それが勉強になりました。
※1 ホメオパシー薬を症状別にまとめた事典。
※2 ホメオパシー薬がどのような肉体的、精神的などの特徴をもつかが記載された事典。
ホメオパシー医学の日本での普及のため医学会を立ち上げる
同じ時期に「日本の医療の中にホメオパシー医学を普及させるのには、医者がやらなくてはダメだ。そのためには医者の学会をつくらなきゃダメだ」という気運が高まりました。そして私が理事長を引き受け、日本ホメオパシー医学会が2000年の1月に発足しました。学会といってもそれほど集まらないだろうと思っていたら、予想よりも集まって、50人くらいが設立総会に来たんです。
学会の方は指導団体を決めなくちゃいけないと考え、さっそく板村論子先生※がいろいろと調べてくれて、イギリスの「ファカルティ・オブ・ホメオパシー」という医者だけのホメオパシー団体へ話をつけました。そうしたら「協力する」と言ってくれたのです。
※ 板村論子先生は13ページに登場しています。
ホメオパシー医学は現代医療の修羅場をくぐってきた医者でないとできない
ホメオパシー医学の研修制度 グラスゴウモデルを確立
ちょうど2000年の10月に、「ファカルティ・オブ・ホメオパシー」の2年に1回のコングレス(学会)がイギリスのバースで開催することになっていました。「そこへ1回、出席しませんか」と誘われて行きました。
そこで、当時会長のボブ・レクリッジ先生にお会いして、日本での研修をバックアップすると確約をとって帰国しました。日本で研修制度を敷くにも、まずは世話人が勉強しなくちゃいけないので、イギリスから講師を招いて世話人だけで勉強しようと思っていたら、なかなかそれが実現できません。あとで考えたら、イギリス側にも豊富に人材がいるわけではないから大変だったんですね。
私は、「向こうが来れないなら、こっちから行こう」と提案して、それでイギリスのグラスゴウへ学びに行くことになったのです。
2001年の春先あたりでした。
そしてグラスゴウへ行き、1週間、朝から晩まで集中講義を受けることを2001年から2002年にかけて5回やりました。それで向こうの3年分の勉強を終わらせました。すごく中身の濃い講義だった上に、講義はすべて英語で通訳が入るため、どうしても時間が余計にかかるのです。
そのあと帰国して日本での研修制度を設けました。これがグラスゴウモデルです。初めは私たちだけでは教えられないから、グラスゴウのホメオパシー病院のデヴィット・レイリー院長にも来てもらっていました。
彼は年齢はボブ・レクリッジ先生と同じで、実力者です。その後私たちもだんだん経験を積んで、今では板村先生が中心となり、グラスゴウがちょっと手伝う。あるいはグラスゴウ以外のイタリアのマッシモ氏など、海外の実力者をときどき招くというかたちで運営しています。
ホメオパシー医学の治療は経験豊富な医師がやるべきこと
西洋医学の医師のなかにも、患者さんの病態にかかわらず決められた計算どおりのことをやっているだけの人や、臨床医でも非常に怖い思いをしながら育ってきた人と、そういう経験を積まずにきた人がいます。
生きるか死ぬかの患者さんを常に見てきた医師は、いろいろな怖さがわかっています。「これから先へ行くと危険だな」とか、「この状態ではもう少し様子を見ても安心だ」とか自分が経験した怖さが、その都度、頭の中にひらめくのです。現代医学の修羅場をかいくぐってきた人ならば、ここでやめようとか、これは違う方法をとろうとか、常に考えるわけです。
ホメオパシーではこういう経験が生かされることが多く、ホメオパシーだけで他の治療法を持たないと、必ず問題が起こると思います。
もう1つ、ホメオパシーだけに頼る治療しかしていない人のなかには、「ホメオパシーには西洋医学的な思考過程が邪魔なんだと、だからホメオパシーをやる人は西洋医学を1回捨てた方がいい」と言う人がいます。でも、私の経験からすると決してそんなことはないですね。中国医学でもそういうことを言う人がいるんです。でも、私は「なんでも手持ちとして武器があった方がいい」と考えます。
これは私の持論ですが、どんな病気であれ、1つの治療法だけに頼って最後まで行くのはよくない。壁にぶち当たったら他の治療法に目を向ければ、意外とそこを救ってくれるものはありますからね。やっぱりある程度の戦術をそろえて戦略を組み立てる、ということが必要になってくるのです。
ホメオパシー医学はエビデンスを越える直観の医学
ホメオパシーを治療に取り入れていく中で、エビデンス(科学的根拠)が乏しいという意見が出ることがあります。しかし現代医学にエビデンスがあるからといって、現状では治らない病気もあるし、病人もどんどん増えています。
そもそも、こう反論すること自体が意味のないことで、人間まるごとをみる医療を目指している私にとっては、ボディ、マインド、スピリットを渾然一体として捉えることが目的です。科学が解明していないものにアプローチしているのですから、エビデンスがどうのという議論に参加しても科学の進歩に見合っただけのエビデンスしか得られません。
だから、臨床の現場でもエビデンスを求める努力を評価しながらも、これに深入りすることなくエビデンスの不足は直観で補っていけばよいと思っています。
直観にはエビデンスを超えた何物かがあります。医療においてもしかり。現に直観が軽視されてしまった分だけ、今の医療が殺伐としてきたのではないかと思います。この直観の領域を豊かに含んでいるのがホメオパシーで、私はホメオパシーを直観の医学だと位置づけています。
ホメオパシー医学は、エビデンスがない分、客観性、再現性に劣るわけですので、治療家は常に謙虚である必要があります。その意味でも、ホメオパシーは西洋医学の知識を身につけている医師であることが望ましいと思いますね。「エビデンスの塊」のような西洋医学を身につけていると、ホメオパシーの足りないところや西洋医学を凌駕しているところがみえてきて、治療者も謙虚になります。
ホメオパシーを医療へ取り入れることへの期待と効果
ホメオパシーが日本にもっと浸透すると医療の質は向上すると思います。1つは治療法が豊富になるからです。これはもうダメだというあきらめていた症状もあきらめないで済むようになります。
それからもう1つ、ホメオパシーは人間の心理的状態の改善にとても役立つわけです。
がんにしても、リウマチもそうですが、慢性疾患の人は気持ちの上でいろんな問題を抱えているでしょう。不安やいらだち、悲しみ、怒りとかね。そういうものや死の恐怖を和らげる医学としてはホメオパシーがいちばんだと私は思っています。
そういうことから心理的な面にホメオパシーが入ってくると、治療の幅がでてきます。さらに、医師は診断をするために人間まるごとを観るくせがつきますから、それで患者さんのいうことをよく聞くお医者さんが増えてくるのです。
ホメオパシーを医療に取り入れていると、些細なことでもきちっと受け止めることができて、そういう意味で、まず治療法が豊富になってあきらめないで済むことがでてきます。それから、心の治療に目が開かれていくことと、人の話をよく聞くという医療者が増えてきます。
こういうことで医療はよくなっていくと思うんです。
さらにいえば医療費の削減になるわけです。ホメオパシーのレメディ代は現代医学の薬と比べて非常に安いので、これで病気を治すことができれば、お金をかけなくていいわけです。そういう意味でもホメオパシーが医療に入ることによって、いい点がいっぱい出てくるのです。
治療の幅が広がるホメオパシー医学は理想のホリスティック医学
ホメオパシーによるがん治療とホリスティック医学
私の病院で、ホメオパシーをがん治療の一環に取り入れ始めた頃、「ホメオパシーでがんは治りますか?」という質問を受けました。
そういう質問を受けたときに、すかさず、「では、西洋医学で治りますか?」と切りかえしていた時期もありましたが、今ではそのような議論はしないようにしています。ホメオパシー医学にしろ、西洋医学にしろどちらも素晴らしい医学体系であり、互いを比較することの方が愚かであることに気づいたからです。
正確に言うと、ホメオパシーは生命場に働きかける医療なので、治しではなく癒しです。今では、「ホメオパシーでがんは癒せますか?」という質問には自信をもって「はい」と答えます。
実際、がん患者にレメディを投与して、がん細胞が縮小したわけでも痛みが消失したわけでもありませんが、「なんだか体力がついてきた、気力が出てきた、痛みは同じでも前ほど気にならなくなった」という回診での患者さんの発言は、日常茶飯事になっています。
ホメオパシー医学だけではなく、すべての生命場を高めるエネルギー医学について言えることですが、あまり治った、治らないにこだわりすぎると、その本質を見誤ることになりかねません。正しい道に進めなくなります。
治った、治らないの二極化は、20世紀の西洋医学のめざましい発展が生み出した一種の呪縛です。医療者も患者さんもこの呪縛から抜け出してほしいということが、ホリスティック医学を目指す私の考えの1つです。そして、その一役を担うホメオパシー医学を日本の医療の中でしっかりと育ててゆきたいと思います。
著者情報
帯津良一
医学博士・帯津三敬病院名誉院長
1936年埼玉県生まれ。1961年東京大学医学部卒業。東京大学第三外科助手、都立駒込病院外科医長を経て、1982年帯津三敬病院開設。日本ホリスティック医学協会会長、日本ホメオパシー医学会理事長。ホリスティック医療の第一人者。東京大学卒業後、外科医として食道がん治療をしていく中で、いわゆる西洋医学の限界に気づく。漢方や鍼灸、気功などの中医学も取り入れた治療をするために1982年に埼玉県川越市に帯津三敬病院をつくり、常にホリスティック医療推進のトップを走る。2001年にはホリスティック医学を目指す、帯津三敬塾クリニックを東京・池袋に開設。現在、理想のホリスティック医療を実現するために新しい病院を建設中。
クレジット
取材・文/高橋利直
写真協力/帯津良一
(『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック⑧ ホメオパシー、アントロポゾフィー医学、バッチフラワー、ハーブ療法… 心と体と生命を癒す世界の代替療法 西洋編』より抜粋)
健康やり直し倶楽部 〜健康の新しい扉を開くPodcast〜
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