【P.2~】命の質を高める生き方と東洋の代替療法/『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック⑨ アーユルヴェーダ・中医学・漢方・気功・ツボ・自然療法… ホリスティックに癒し、治す世界の代替療法 東洋編』

自然界全体の雄大な営みに学ぶ

命の質を高める生き方と東洋の代替療法

自然は利用すべき対象物という西洋の思想に対して、自然との融合的な思想を軸としているのが東洋の代替療法です。古くから東洋では、万物に霊魂が宿っていると考えられ、命は個人の所有物ではなく、貸し与えられたものと考えます。「生まれたことに感謝をして、今を大切に生きる」命の質を高める生き方について伺いました。

自然との調和が原点、微細なエネルギーをも捉える東洋の代替医療

東洋と西洋の代替医療を比較すると、東洋は、農耕や漁労、林業が中心の民というところで生きてきましたから、多神教的な、あらゆるものに神なり霊魂が宿っているとするアニミズムをそのまま継承してきた、という気がします。

例えば、一木一草に霊魂が宿っているという考え方は、草も自分の体も同じ神が宿っている、いわば仲間であるという意識が基本です。同じ神が宿っているわけですから必然的に、例えば薬の素材となる薬草の採取をするときにも、めったやたらに取らず、その薬草の特性がもっとも強く発揮される季節、時間などを観察して、一定の儀礼のもとに、その気やプラーナ(生命エネルギー)をいただきますといって利用する伝統がありました。

西洋の代替療法にもそれはあったかもしれませんが、遊牧民的な資質や一神教的な世界観が影響して変質したのだと思います。自然は人間が利用すべき対象物であって、人間のほうがどちらかというと上だという意識に西洋の特色があります。

自然志向を軸にして考えられてきた東洋の代替医療の原点としてあげられるものはアーユルヴェーダや中医学で、その周辺に多様な民間療法や伝承療法があります。これらに共通しているのは、物理的な肉体と共にエネルギー身体の存在に気がついているということです。

中医学でいうと、気は、大気に満ちている気であるし、人間の生命をつかさどるものでもあるし、目には見えないけれど、ある種、生命に重要なかかわりを持つ、今の言葉でいうと微細なエネルギーということになります。

つまり、肉体以外に非物質的な目に見えないエネルギー身体があり、気の体があり、チャクラ※やツボもあり、そこに働きかけていく、それが特色だと思います。

※ ヨーガや瞑想などで使われる言葉で、人間の生命力や肉体、精神のはたらきをコントロールするエネルギースポット。

東洋の伝統では宇宙論、身体論、健康論がひとつながり

私は、1989年に南インドのバンガロールで開催された、第1回の国際ホリスティック医学会議に出席しましたが、その会議は1週間ぐらい続いて、そのちょうど中日ぐらいに、ベルリンの壁が崩壊したというニュースが飛び込んできました。泣いて喜んでいる人もいて、皆で大騒ぎをして、そんなことがあってよく覚えているのですけれど、期間中に会議とは別に、ホテルの中庭でワークショップがありました。

そのときアーユルヴェーダのワークショップを受けたのですが、私以外の受講生は、ほとんど欧米から来た、お医者さんでした。3日間のワークショップで、うち1日目は完全に宇宙論で終わりました。この宇宙はどうしてできたのかという、観念的な話ばっかりしていて、医療の「い」の字も出てこないんです。

2日目の午後になって初めて「ナウ・ユーアーボーン(さて、そこで人間が登場することになる)」といって、そこから始まるんです。ようやくそこから私たちが知っているアーユルヴェーダの講義が始まりました。こうしてみると3日間のコンパクトな講義のうち、半分は宇宙論で、このバランスが極めて印象的だったんですね。

こんな経験は初めてでした。医療の話を聞くはずの講義が、半分が宇宙論。そのことは、その後もずっと疑問でした。

日本に先駆的にアーユルヴェーダを紹介してくれた大阪大学医学部教授だった故丸山博先生やハタイクリニックの幡井勉先生は、3日間のワークショップでいうと、その後半部分を紹介してくれたわけで、それはそれで重要な意味があります。

また、先日、アーユルヴェーダ研究者の青山圭秀さんの本を読み、ご本人にお会いして初めて全部がわかり、きっちりと理解できました。インドの3日間が青山さんの1冊の本に集約されているということに気がついたんです。

アーユルヴェーダとはこういうものだったんだと…。

宇宙論的なこの世の始まりと人間の始まり、そして、現在の身体論と健康論がひとつになっているものが、アーユルヴェーダを始めとする東洋の伝統的な医療論になっていたのです。

生命は貸し与えられたもの、所有物ではなく返すべきもの

昔の人は、命はいわば貸し与えられたもの、という認識がずっとあったと思います。自分のもの、自分の所有物としてではなくて、貸し与えられたものであり、返すべきもの、この身体も自分に貸し与えられたものであって、時期がきたら返すべきものだという認識です。身体は失われても命は永遠に続いていくという認識は共通していたんじゃないですかね。

帯津三敬病院名誉院長の帯津良一先生がよくおっしゃるように、死ぬまで「生命の質」を高めていき、死ぬ瞬間に最高点に達する。それが東洋的な考え方です。つまり物質としての体力は衰えたり、臓器の働きが低下したりする中で、「生命の質」だけは高まっていくという状況はありうるわけです。

死ぬときにだんだん透き通っていって、最後にある種の輝きをもって亡くなっていくという、そういうイメージや境地がありうるんだということですね。

現代科学的な考えのように、最後にはブラックアウトして、虚無の世界に陥るだけ、意味もなにもなくて、「はい、それまでよ」というきわめて虛無的な生命観とは天と地の開きがありますね。

わかりにくいかもしれませんが、そんなに高度な哲学的な話をしているわけではありません。古代からずっと続いてきた人間の意識、言ってみたら、一本の植物にも心があって、心があるからいつ咲くのかがわかるし、枯れる時期も知っている。その心が植物の体と一体になって変化を起こしているんだということを、昔の人たちは読み解いてきたのだと思います。

自分の生命を、単なる「もの」としては見ていないわけですね。そこに宿っている霊魂とか神の力とか超越した力を見ているわけです。

人間の意識にも同じではないにしろ、ある種の植物的な意識があり、その意識が作用して自律神経的な、いろんな変化を起こしているのではないでしょうか。

帯津先生は、もうひとつ最近盛んに「直観」という言葉をつかっていますが、「直観」はとても大事なもので、生命の知恵そのものです。

既成概念とか既成の知識をさっとクリアにして、からっぽになったときに、どーんと感じるもの、それが直観です。

帯津先生の場合は気功などの養生法を、長年やってこられた上にたって、そう言われていると思います。

直観は身体を中心とした肉体的な欲望から生まれるものではなく、「本来の自己」とつながるエネルギー身体からの「内なる声」のようなものではないでしょうか。

生まれたことに感謝、今を大切に生きる それが命の質を高める生き方

生き方にはこれしかないというものはあり
ません。それぞれの人がそれぞれの持ち場で、
その道を担っています。

個々の人間の考え方や環境も多様だし、いくつかのパターンにわけられるような気質や体質の違いもあります。

そして、その気質や体質にも遺伝的なものと後天的なものがあり、それらが二重三重の構造になっています。

また、遺伝的体質の前に、地球的·地域的な特質みたいなものがあって、これが集合無意識みたいなものだと思います。一番表層の、俗にいう冷え性だ、何性だっていう体質は、現代医学では治せないかもしれませんが、ライフスタイルの改善で十分治る可能性はあります。

もっと深い、本質的な気質や体質は変えようとしないほうがよくて、その与えられたものをどうやって生かすかというふうに考えていけばいいんじゃないかと思います。

命の質を高める生き方という視点から言うと、地球的・地域的な特質や先天的な性質を変えることはできないし、私たちの親や祖先が生まれてきた土台というものがそこには存在しているし、長い歴史もある。そういった根底があるということを理解すべきだと思います。

ちょうど、氷山の水面に出ている部分と下方の部分の関係のように、日常的に見えている水面上の部分に悩みや苦痛があっても、根底の部分を信じていれば、何があろうがなかろうがあまり気にしなくても、ダイナミックな命という営みの中では、結果はさほど変わらないとも捉えられます。

氷山の海面上に出ているところに問題があったとしても、「海の中の大きな部分がこれだけあってちゃんと浮いているんだから大丈夫なんだ」「それが結局人の背中を押す源になっている」ことに気づいて、その上で「楽しみを持って生きていこう」と考えれば、何かをしたいという気持ちが自発的に起こってくるものなんですよ。


著者情報

上野圭一 翻訳家・鍼灸士
日本ホリスティック医学協会副会長、代替医療利用者ネットワーク副代表。消費者、市民、エコロジー等の幅広い分野で理論展開。

クレジット

取材/高橋利直 文/丸山弘志 写真/上野圭一(花の写真)

(『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック⑨ アーユルヴェーダ・中医学・漢方・気功・ツボ・自然療法… ホリスティックに癒し、治す世界の代替療法 東洋編』より抜粋)


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