食事で高める免疫力
免疫力を最大限に生かして病気を予防・治療するために
食事は血管や臓器をコントロールしている自律神経に、直接作用します。
脂肪分の多い食品、甘い食品、冷たいものを摂りすぎるとこの自律神経のバランスが崩れ免疫力が低下します。また、心と体がバラバラの現代の栄養学だけでは、免疫力を高めることはなかなかたいへんです。
病気になりにくい、丈夫な体をつくるための毎日の食事について考えます。
これだけ知れば 健康になれる、食と 免疫力のやさしい話
免疫とは、体になにかしらの異常が生じたときに、それを察知して修復する身体のシステムです。
がんやアレルギー疾患、糖尿病、高血圧、潰瘍性大腸炎、うつ病、腰痛といった病気や症状もすべて体を健康な状態に戻そうとする免疫の治癒反応であり、体内で免疫システムが正しく働いていれば、これらの病気は予防でき、かかったとしても治癒へと向かいます。
また、免疫は体内の血管や臓器をコントロールしている交感神経、副交感神経という自律神経と連動しています。そしてこの自律神経のバランスが崩れると免疫力が低下するのです。
食べ物は、自律神経に直接作用する働きが強く、例えば砂糖や脂肪分の摂りすぎは交感神経を優位にし玄米、小魚、菜食中心の食生活は副交感神経を優位にします。
免疫力を高めるための毎日の食生活で大切なことは、副交感神経を優位にする食事を心がけることです。さらに極度の交感神経優位、あるいは副交感神経優位の状態に自律神経が働かないようにするということも大切です。
心と体がバラバラの 現代の食生活が危ない
消化管は、副交感神経に支配されているのでストレスがかかったときに無性に食べたくなるのは、たくさん食べて副交感神経を優位にして解消する体の反応です。
ご飯を食べ過ぎてしまう人やお菓子をたくさん食べてしまう人に、その行為を単独で解決させることは困難で、こういう人は仕事が忙しいとか、心に悩みがあるときに過食によって心身のバランスをとっています。
そういうときに、ただ食べるのをやめなさいと言っても解決策にはなりません。その引き金になっている辛さや悲しさを引き出して治すことが必要になります。
たくさん食べる行為は、心身の辛さや悲しさを一時的には解消してくれますが、続けると肥満や運動不足になって自分の体をもてあまし一気に息がきれて交感神経優位になり免疫力が低下します。
さらに過食し続けると今度は心臓や血管に負担がかかって狭心症、心筋梗塞、脳卒中、くも膜下出血という病気になります。
肉が大好き、揚げ物が好きな人は高カロリーを体が要求していて、こういった嗜好の人の生活スタイルを聞いてみると、長時間労働とか独特な生き方の偏りが背景にあります。長時間労動をしている人は、食事時間が短くなりますから野菜は不向きになり、カロリーの高い脂身の多い肉、揚げ物好きになるのではないでしょうか。
菓子パンとジュースの 生活が今の子どもたちを ダメにしている
非行少年や登校拒否児とのカウンセリングに長年従事し、「心の荒れと糖との関連」を考究している岩手大学名誉教授の大沢博先生から学んだのですが、菓子パンとジュースの食事は子どもたち、若者にとってすごく食べやすい食事で、ご飯や野菜のおかずを食べるより菓子パンとジュースのほうが満ち足ります。
甘いもの中心の食事は、血糖上昇が一気にきて元気になるメリットはありますが、インシュリンの分泌を誘発して1時間半、2時間後に激しい低血糖が生じるという弱点があります。
すると、さっきまで元気だった若者が、なんか急にイライラしてけだるそうにして、ささいなことにも頭にくる、怒り出すという行動をします。
私たちは低血糖になったとき、ジュースがあるとそのまま血糖をもとに戻せるのですが、まわりにジュースがないときは、交感神経が緊張してアドレナリンの作用で血糖を上げます。これがキレる現象です。
キレた後は血糖値が元に戻っているのでさっぱりしてケロッとしていますが、その間に物を投げたり、暴力をふるうという独特の過激な行動に走りますので、甘いもので元気を出しても、すぐ元気を失いキレる原因になります。
生活の乱れは普通に 生きているレベルまで 広がっている
先日の週末の朝早く、コーヒーショップに立ち寄ったときのことですが、朝食にコーヒーと菓子パンを食べている若い人たちがたくさんいました。中にはコーヒーの代わりにジュースを飲んでいる人もいました。
この光景には私も驚いたのですが、食生活の乱れは普通の人が普通に生きているレベルまで広がっています。
パンとジュース、パンとコーヒーというカタカナ料理はおしゃれな面があり、朝食として日常的に広がっていますが、こういった食事は、お昼まで体が持たずに午前中に低血糖になってイライラして冷静さを失う危険性があります。
ご飯を炊いて、みそ汁を作って、野菜の煮付けを食べる、という朝ご飯を、病気にならないための食事の基本として多くの人に実行してもらいたいですね。
体にたまった毒の排出を 助ける食物繊維
収穫したばかりの野菜や果物も新鮮ですけれど、命のある状態の生き物がいちばん新鮮です。
人間の体内で活動している酵素は腸内細菌の中で生きています。
そして、体内を健康に保つには、この酵素を育てるのに適した、きれいな腸内環境をつくることが大切で、そのためにも食物繊維は重要な役目をしています。
体にたまった毒の排出方法としては便からの排出がおよそ75パーセント。便の量が増えていろんな老廃物を出すとか、腸内細菌が増えて腐敗がおこらないように体調を整えるには、食物繊維なしには不可能です。
パンとジュースには食物繊維はありませんし、野菜サラダには食物繊維が含まれていますが量的に摂れません。特にサラダ菜類はボリュームが多くみえますが、食物繊維の量は少ないのです。
食物繊維の豊富な野菜の煮付け、切干大根、ひじき、おからなどの料理を食べると一気に便の量が増えて、腐敗臭が減って、体に入ってくる重金属でもなんでも排泄してくれます。
便秘している人は 血液が汚れている
先日、新谷弘実先生(米国アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授)の講演を聞いたとき「腐敗した腸内ガスは火山噴火で出る有害ガスよりも有害で、硫化水素やメタンガスをたくさん出す」と言われていました。
よくトイレにかけ込んだとき前の人の臭いが残っていることがあります。腸で発生した有害物質は、腸管壁から血液中に吸収されますので人間の出すガスが、おのれの体を汚していると同時に、地球環境を汚染しています。
ということは、一人ひとりが健康になれば、血液の汚れも浄化されて地球環境もきれいになるということにもつながりますし、このような研究がすすめば、少し飛躍しますが今、世界で危惧されている地球温暖化による環境負荷対策にもなるのではないでしょうか。
体が喜ぶ食材パワーで免疫力アップ
今日のおかずに迷ったら・体調の悪さを感じたら
免疫が正しく働いていると体は病気になりにくく、自然治癒力も高まります。健康に暮らすには日頃から免疫力アップの生活を心がけることが大切ですが、中でも食事は重要な役割を持っています。無理せず、こだわりすぎず、心も体も快調になる食事の摂り方を安保先生にお伺いしました。
1 体を温める食品
冷蔵庫で冷やした食品、アイスクリームやゼリーは一時的に元気が出るので疲れたときに食べたくなりますが、体温を下げて血管を収縮させ、血行が悪くなり免疫力を低下させます。食べ物は一度胃に停滞してから腸に行くので、冷たさも多少は軽減されるのですが、冷たい飲み物はそのまま胃を通過して腸を冷やすのでもっと危険です。
温かい食べ物が中心になって体温が上がると、血管が拡張して血行がよくなり副交感神経が優位になります。また尿、汗、便の排泄が活発になり、新陳代謝がよくなり免疫力が高まります。
朝起きたときの体温が、36℃以下の人は低体温なので、体を温める作用のある根菜類やしょうが、にんにく、ねぎ、にらなどの素材を積極的に摂るように心がけて下さい。
- にんにく、しょうが、ねぎ、里いも、大根、にんじん、しそ、みょうが、にら、もち米、大麦、えび、栗、くるみ、梅、桃、さくらんぼ、黒砂糖、酢
2 すっぱい、苦い、いやいや食品
体には不快なものが入ってくるとそれを察知して排出しようとする反応が備わっています。これは排泄反射で、自律神経のうち副交感神経が司っています。すっぱい、苦い食品は、この排泄反射を促し副交感神経が優位になるので免疫力が高まります。
例えば梅干しを食べて酸っぱい味覚が生じると、唾液が分泌されて胃腸の消化活動が活発になるのも、副交感神経が優位になるからです。また、副交感神経が優位になると血管が拡張して血行もよくなります。他にも、酢や梅干しの酸味のもとであるクエン酸は、疲労回復に効果があり、わさびの辛み成分には肝臓の解毒作用があります。
でも摂り過ぎは胃腸に負担をかけ、交換神経を優位にしてしまうので、適度に少量を使用するのがポイントです。
- 酢、梅干し、ゆず、レモン、にがうり、ピーマン、しそ、うこん、ねぎ、しょうが、わさび、貝割れ大根、山椒、唐辛子、こしょう、からし
3 食物繊維たっぷり食品
食物繊維は不消化多糖類と呼ばれ腸管で消化されにくく、食べるとこの食物繊維をなんとか消化しようとして腸管の運動が活発になり、副交感神経が優位になります。
さらに便通を促したり、老化や病気の原因となる活性酸素を吸着して体外へ排泄する毒だし効果もありますが、食べ過ぎると負荷がかかりすぎて腸管が疲労する恐れもあるのでご注意を。
- ごぼう、たけのこ、かぼちゃ、ブロッコリー、モロヘイヤ、オクラ、しいたけ、まいたけ、なめこ、わかめ、ひじき、玄米、麦、雑穀、りんご、バナナ、いちご
4 腸を元気にする発酵食品
発酵食品には腸内の有効菌を増やし、腐敗菌を排除して腸管の働きを整え免疫力を高め老化を防ぐ働きがあります。
発酵食品は食べ物の消化吸収力を高めますので、納豆、みそ汁、漬け物などを朝食で食べることは、朝に動き出したばかりの腸管にとっても負荷がかからず理にかなっています。
また、発酵には食品を腐敗しにくくし、消化吸収がよくなるといった効果もあります。
- みそ、しょうゆ、納豆、食酢、ぬかみそ漬け、たくあん、甘酒、キムチ、テンペ、チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料
5 命をまるごといただく全体食品
全体食品は、玄米、小エビ、小魚などの生きていたままの姿をしている食品のことで、魚の切り身や牛や豚の食肉の部位、皮や種を取り除いて食べる野菜や果物と違い、それらが生きていくために必要な栄養素が丸ごと含まれています。
1つの食品で多くの栄養があり命の力もある全体食品を摂ることは、健康増進や病気回復にたいへん役立ちます。
- 玄米、麦、雑穀、小エビ、小魚、白魚、ししゃも、わかさぎ、小あじ、いわし、大豆、枝豆、いんげん豆、白ゴマ、黒ゴマ
6 血液をサラサラにする食品
血液がサラサラからドロドロになる原因は低体温が関係していたり、水分不足が関係していたり、食生活の不摂生が原因だったりします。
血液ドロドロ状態が続くと高血圧、高血糖、動脈硬化、脳血栓、心筋梗塞の要因になるといわれています。一過性の血液ドロドロ状態から脱するには、食事の前後や食事中に水分を摂ることを心がけて下さい。慢性の血液ドロドロ状態は、体を温める食べ物を意識して摂り、低体温を解消することです。
体が温まると血行がよくなるので血液ドロドロがサラサラになります。梅干しや酢など酸っぱくて排泄反射を促す食品、納豆やみそ、しょうゆなど発酵食品に含まれるイソフラボンにも血流をよくする作用があります。
7 適量の塩分を摂る
塩分の摂りすぎは高血圧の発症に関与し、心臓病や腎臓病を悪化させたりします。一日の摂取量の目安が公的機関などで推奨されていますが、生活環境や仕事の質によって代謝エネルギーが違うため摂取量にも違いがあって当然です。健康のための減塩運動がありますが、健康な人が無理に減塩をすると代謝が低下して低体温になるという報告もあります。
栄養学から見ると、塩分を控えるとナトリウムが減少します。ナトリウムが欠乏すると成長停滞、皮膚乾燥、被毛脱落、疲労、胃酸の減少、食欲不振などをきたします。急速な欠乏の場合は、めまい、失神などを起こします。
8 適量の水分を摂る
水分は汗をかく人は多く水を摂る、汗をかかない人は少なくてもいいと自分の感性で決めなくてはいけません。
腸管のなかで消化の働きを助ける水分は副交感神経の働きを優位にして体の免疫力を高めます。
健康な人は腎機能がしっかりしているので多く飲んでも体が尿にして排出してくれます。そのときにいろいろな老廃物も出ますが、極度に飲み過ぎるとこんどは冷えが心配です。
一方、水分が足りないと免疫力も弱まります。また、血液もドロドロ状態となり手足の先や体内の各臓器の末端まで血液が流れにくくなるため、がんや腎臓病、糖尿病、膠原病、脳卒中や心筋梗塞、高血圧などあらゆる病気の発症リスクも高まります。
9 神経質にならず楽しく食べる
食材のよい悪いを決めつけたり、一日の食べる量にこだわったりと食事に必要以上に神経質になっていると、食事そのものがストレスになります。
そういう気持ちでいくら副交感神経を優位にする食事を選んでも、ストレスで交感神経が優位になっては何にもなりません。
楽しい食事は、リラックスでき、食もすすみ、ストレスを解消して免疫力を高めます。そして、なによりも食材パワーを効率よく摂り入れることができます。
神経質にならず、楽しく、できればゆっくりと食べるのがもう1つの免疫力を高めるポイントです。
10 適量を自分にあった食べ方で摂る
私は今、玄米が食の基本になっています。朝食は玄米ご飯を軽く一膳、昼食は玄米ご飯をお弁当にして、夕食は晩酌するので、その日の酒量にあわせて摂取エネルギーを調整しています。
玄米菜食にしておかずも変わりました。野菜と魚は毎日食べますが、肉類は回数が減りました。
でも、ご飯は玄米だけと決めているわけではありません。大好きなたらこは白米の方が美味しくいただけます。
食べ物をあれはよい、これはだめと自分のなかで規則のようにきめつけては食がおいしくありません。それでは修行と同じです。
玄米ご飯にしてから体温が上がって、風邪もひかなくなりました。免疫力が高まった結果だと思います。
著者情報
安保徹 新潟大学大学院医歯学総合研究科教授
1947年青森県生まれ。東北大学医学部卒業。1980年米国アラバマ州立大学留学中に、ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体(L61-7)を作製。1989年胸腺外分化T細胞を発見。1996年白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。2000年、百年来の通説、胃潰瘍 胃酸説を覆す顆粒球説を発表し大きな衝撃を与える。英文論文の発表数は200本以上、国際的な場で精力的に活躍し続ける世界的免疫学者。
クレジット
取材・文/高橋利直
イラスト/うえはらゆうき
(『「自然治癒力を高める」新シリーズ「ナチュラル・オルタナティブ」ヘルスブック① 「なぜ病気になるのか?」を食べることから考える』より抜粋)
健康やり直し倶楽部 〜健康の新しい扉を開くPodcast〜
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