寝たきり老人にならないための実践ワーク ①

災いは、忘れた頃にやってくる

年末、突然起こったみぞおちの激痛

 年末12月28日の朝、突然みぞおちに激痛が走りました。 その日はいつも通り朝7時に起床、会社に9時に到着して仕事を始める準備をしている時でした。最初、胃の下部が引っ張られるような痛み、別の表現をすると「足の土踏まずが攣ったような痛み」がありました。
 しばらく忘れていましたが、この症状は年に数回体験しています。
 「あっ、またこの痛みが来た」 その痛みは徐々に強くなり、10分もすると耐えられないほどの
痛さになりました。
 普段は、まったく忘れている痛みなのですが、一瞬にして過去の同じ体験を思い出しました。
 「しばらくじっとして安静にしていよう」と、まずは気持ちを落ち着かせました。
 今回も、吐き気や嘔吐、発熱などの症状はなくただただ痛いだけでした。
 激痛が始まり30分ぐらいたった頃、みぞおちで何かが「くにゅっ」と動いた感覚があり、痛みもその直後から急速に軽減、1時間たった頃には完全に消失しました。この痛みの消失も今までと同じ体験でした。そしてその頃には、もう大丈夫という感覚が戻ってきていました。(下註)

健康弱者になって改めて気づいたこと

 体が弱ると心まで弱くなります。
激痛の間、ふと、「この痛みがこのまま続くと生きていることが嫌になる」
「人間生きるのを諦めるとそのまま死んでしまうのではないだろうか」
そんなことを考えていました。
 翻って母(88歳)のことを思い出し、昨年3月に脳出血で救急車で救急病院に搬送され、一命を取りとめた時、
「もう、生きているのが辛い」
「この先とても不安でどうしていいかわからない」
と言っていたのは、その時の母の精一杯の気持ちだったのだなと思い返しました。

一瞬だけ、初めて88歳の母が私より元気に思えた

 母には、何十年も続けている習慣があります。それは毎日、新聞を読み尽くすことです。
 母は新聞を読む時に赤鉛筆を欠かしません。まず、その日のテレビ欄をチェック。テレビ欄の「ニュース」と「音楽番組」「スポーツ番組」に赤丸をつけています。「ドラマ」は、前週からの記憶が引き継げないので興味がないようです。それから「トップ記事」「社会面」「文化面」と一通り目を通し、最後に「広告」です。特に熱心に見ているのは、高齢者向けの通販と、健康書の広告です。
 週に1回くらい母から、新聞の広告に出ていたあの商品が欲しい、あの書籍が欲しいと電話がきます。いずれも広告のコピーで「○○に効く」「○○が治った」という言葉が気になるようです。
 たいていは買っても使わないので適当にかわしますが、毎回、否定しているとストレスが溜まるようなので、3〜4回に1回くらいは買うようにしています。これは、母の健康のための必要経費と諦
めています。

   (日課の新聞チェック。隅から隅まで読んでいます。)

 昨年12月のある週末、実家に様子見に帰った時、母は少しイライラしている様子でした。しばらく母を観察していると、突然、ぶつぶつ呟き始めました。
「本当にダメになって、寝たきりになったら、介護施設に行けばよい」
「だから、お迎えが来るまでこの家で楽しんでいようと思うの」
また、いつものグチが始まったかなと思うと、次に、「わたしも本を書けばベストセラーになったかも」と言ってきたのです。さらに、
「自分自身を受け入れることができない」
「寂聴さんと同じ心境」
「身も心もひと回りもふた回りも縮まった」
最後に、ワッハッハ。
 初めて88歳の母が私より元気に思えた瞬間でした。
 どうやら、先ほど読んだ新聞に、寂聴さんのベストセラーの本の広告が出ていたようです。昨年、11月に99歳で生涯を閉じた瀬戸内

寂聴さんは、最期の最期まで作家として書き続けていました。
「もう60歳だから病気だからと、人生を諦めない」
「今の自分に与えられた環境で、好きなこと楽しいことを見つけて生
き抜く」
とその本の広告に書かれていたコピーを反芻しているようでした。
 なるほど、これが母の生きがい、ストレス解消法なんだ…。

健康とは自分でつかみ取るものかも知れない

 私自身、昨年末の激痛がなければ、今年も新年から、仕事に趣味に突っ走っていたかもしれません。ですが60歳を過ぎると体は確実に衰えてきています。
「これくらいはできるはず」
ということも、少しずつできなくなってきています。
 大きな問題が起きる前に、体について意識することができたのはラッキーでした。
 介護にしても老化にしても、避けて通ることはできません。昨年までは「私が介護されることなんて遥か先の出来事」と思っていましたが、もはや自分も射程距離なんだなと気付かされました。
 介護も老化もどうせ通るなら、それらを受け止めて、明るく楽しく過ごしたいものです。
 病気にしても、災害にしても忘れた頃にやってきます。
 今年も1年、健康面では免疫を高める生活を心がけて、また、地震、台風などの自然災害にも用心しながら暮らしたいと思います。月並みですが、
「備えあれば憂いなし」です。
 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

※激痛の因果関係は、なんとなく体が疲れている時、気持ちが緩んでいる時に起こるかなという程度しかよくわかりません。以前、病院で血液検査、CT 検査、エコー検査など一通りの精密検査をしましたが、特に異常は認められませんでした。検査結果は原因不明で今でも経過観察となっています。

高橋利直

1959 年生まれ。大学では工学部電子工 学を専攻。1984 年大卒後IHI に入社。火 力発電所の制御設計に携わる。1986 年3 月にIHI を退社。4 月から頭とお金を提供 してくれた創業者柴田さん、体と汗を提 供した私、他1名でほんの木設立の準備が スタート。1986 年6 月に、株式会社ほん の木創業。2003 年より代表取締役。