老いについて(1)大村祐子

イラスト/大村豊信

 皆さま、こんにちは。大村祐子と申します。
この度、再びご縁をいただき、ほんの木発行のこの情報誌に小文を書かせていただくことになりました。
 新型コロナウイルスが世界中に蔓延している中で、「明日は我が身か」と怯え、恐れ、大きな不安を抱え、皆さまは日々心身を整えて暮らそうと、大変な努力をされていることと思います。私もその中の一人です。75歳と69歳の老夫婦ができることは、自分たちが感染しないようにすることだけ。人様のお役に立てることは何もありません。ただただ祈り、祈り続けるだけ……。
 そんな日々を過ごしている時に、あるきっかけで、ほんの木の高橋利直さんと再会いたしました。近況報告、日本と世界の情勢を熱く語る中で、高橋さんにこのように書く機会を与えていただきました。
 この情報誌をお読みいただいている方の中には、1999年にほんの木から発行されました「私の話を聞いてくれますか」を初め、3年間にわたって18冊お届けしました「シュタイナー教育に学ぶ」シリーズをお読みくださった方々がおいでになると伺いました。懐かしく、嬉しく、感謝の思いでいっぱいです!
 その節は、皆さまからたくさんの支え、励まし、助け、そして批評をいただき、大きなおおきな力になりました。改めてお礼を申し上げます。皆さまと思いがけず、このような形で再会できましたこと、また、この誌上で初めての方々とご縁をいただきましたことを、心より嬉しく思っております。

 1998年夏、私はそれまで11年間、学び、仕事をしていましたアメリカ、サクラメントを引き上げ、日本に戻ってきました。日本にシュタイナー思想とその実践を広げたいと考えたためです。そして北海道の伊達市に仲間と共に人智学共同体「ひびきの村」を創り、農場、保育園、小中高校、大人が学ぶプログラムなどをスタートさせました。
 その前年、サクラメントまで足を運び、私と私の仲間たちの計画をお聞きになったほんの木の前社長 柴田敬三さんは、「ひびきの村」の理念と実践に深く賛同してくださいました。そして、社を挙げて「ひびきの村」を応援してくださいました。
 26冊もの本の出版を初め、全国での講演会、ワークショップの企画、挙げ句は通信販売の売り上げの5%を寄付してくださるというキャンペーンまでしてくださったのです。こうしてひびきの村の活動がスタートしました。
 2011年5月、私は母の介護のために職を退きましたが、今も「ひびきの村」は少し形を変え、高い志のある若いスタッフによって運営されています。
 私は4月6日に75歳になりました。50歳を過ぎた時から、私はこれまで歩んできた道と、『その日』が訪れるまで歩むであろう道を考え続けて、今日を迎えました。
 そして、ここに「老い」について、「老いるとはどうことか」「私たちは老いをどのように受け入れるのか」「老いた時の在り方、生き方」などについて書く予定でした。
 しかし、構想をまとめている間に、新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、誰もがいつでも感染する状況になってしまいました。

 ウイルスの発生だけでなく、自然破壊や地球温暖化をはじめ、動植物の種の絶滅、動物の生存の危機など、多くの現象が今、起こっていることを私たちは知っています。
 多くの人が、「このままで良いわけはない」「こんな生き方を続けられるわけがない」「どうにかしなければ…」と考えている筈です。
 私もその一人です。「これ以上、地球から搾取し、地球を痛めることを止めて欲しい!」という若者の切実な訴えに心を痛め、「こんな地球を次世代の人たちに残していくのは、本当に申し訳ない」と思いながら、それでも私たち、いえ私は、改めることができませんでした。 世界中の人々が生活の破綻を恐れ、死の恐怖に陥り、混乱している今こそ、私たちは人として真っ当な「在り方と生き方」を考え、決断し、生き始める時だと思います。
 新型コロナウイルスが跋扈しているこの困難を乗り越えた後、私たちの生活は元に戻るのでしょうか? 私たちは元に戻そうとするのでしょうか? 私は、これまでとは違う私自身の在り方と生き方を見出し、それを生きたい、と心から願っています。

 高齢になった今、私が生きるために必要としている物は僅かです。大した活動もしていませんから、僅かな食物で十分生きていくことができます。それでも自給自足はできませんし、助けて頂かなければならないことは多々ありましょう。けれど、高齢者だからこそできる「小さな暮らし」があると思うのです。
 これから日本でも世界でも、更に高齢者が多くなります。その高齢者が「小さな暮らし」をしてゆけば、地球から搾取することも、地球を汚すことも少なくなることでしょう。
 今の若者の中には、多くを望まない人も少なからずいるようです。そんな次世代の若者たちにも、小さな場所で、少ない人々と共に営む「小さな暮らし」が広がっていけば…今、私はそんなことを考えています。

 次号では、皆さまとご一緒に「小さな暮らし」を考え、それを実現するための方策を模索したいと思います。
 皆さま、どうかご自愛くださいませ。(続く)

大村祐子(おおむらゆうこ)
1945 年生まれ。 アメリカ、サクラメントのルドルフ・シュタイナー・カレッジにてシュタイナー学校教員養成を学ぶ。その後、現地のシュタイナー学校で教える。1998 年帰国し、北海道伊達市で人智学共同体「ひびきの村」を立ち上げ主宰。2011年「ひびきの村」から退いて神奈川に移り、執筆、講演、ワークショップ、講座などを続ける。現在、一般社団法人「コネクト・ビレッジ」を立ち上げ、人智学を基に運営される「小さな暮らし・ハウス」のスタートを目指す。著書多数。