第10話 ロックフェスのように明るい先生たちの終日ストライキ(リレーエッセイ)

「ストライキに出たあと一緒に美術館に行かない?」と誘われた。
5年前のオランダ留学中、当時見学に行っていた小学校の先生に、「休日にランチしに行かない?」と言うような気軽さで。 

その時私は、フローニンゲンというオランダの町でホームステイしながら小学校の授業を見学させて頂いていた。
私は3〜4歳クラス担当のヨカ先生(イエナプラン校で10数年教えているベテランの方で、大学院の修士で美術専攻)の教室で過ごしている時間が長かった。そのヨカ先生が声をかけてくれたのだ。

私はヨカ先生とオランダの小学校の全国ストライキに参加した。
オランダ全土で小学校は終日お休みに。
こどもたちのために、美術館・プールなどの入場料はその日無料だった。
つまりそれは、ストライキに賛同していることを示していた。
 
当日は、嵐という感じの暴風雨だった。
続々と Stads Park と呼ばれる競馬場の会場に集まってきた小学校の先生たちは
ほとんど女性だった。私がいくつか見学した学校は校長先生も女性が非常に多かった。

ヨカ先生と一緒に合流した同僚たちも、雨が嫌だと言いつつ、続々と集合。
私が行ったフローニンゲンの会場にはその時、約5000人の小学校の先生が集まったそうだ。
ちなみに、デン・ハーグの会場では、60000人(!!)集まったらしい。

その時のストライキの要求は、賃金・労働条件の改善だった。
政府がもっと教育にお金をかけるようにしてほしい。
アシスタントティーチャーを増やしてほしい。
小学校教員は、賃金が中学校以上の学校よりも低いらしく、男性の教員が少ないのだそう。
その時私が見学実習に行っていたる学校も、男性の先生が校長先生を合わせて5人ぐらいしかいなかった。
あとは、全員女性の先生。つまり、90%ぐらいは女性だった。
校長先生以下、他の先生も、ホームステイ先の保護者も
同じようなことを口々に言っていた。

会場は音楽野外フェスだろうか? という雰囲気で、ガンガン音楽が流れていた。
あちこちで同じ学校の先生たち同士が笑いながら自撮りしていた。底抜けに明るい雰囲気だ。

集会が始まると赤いワンピースを着たパンチの効いた女性が
司会進行しつつ、様々な要求をみんなに投げかけていた。
赤は怒りの表明ということで、服装のどこかに赤を身につけている人が多かった。
  
それを復唱しながら、全員が拳をあげる・・・
移動式の舞台トラックとその両側の大きいスピーカーからQueenのWe Will Rock You が鳴り響く。
雨風の中、小さいこどもを肩車している人も居た。家族連れのお祭りのようだ。
日本では見たことがない光景だった。

ヨーロッパの市民革命の歴史背景をひしひしと痛いほど感じた。

その会の最中にアナウンスがあった。
「みんな、自撮りしてハッシュタグをつけて、Facebook, Twitter, Instagram などにあげてね!」
校長先生を含めた職員の方々が、
軽やかに笑いながら自撮りをしていた。私も笑顔で一緒に行った友人と写真に収まった。

文 化 背 景 が 違 い す ぎ る 、と圧倒された日だった。
しみじみ、市民民主主義の、根幹スピリットはこれなのだな、と。

日本は上から変わってきた社会制度だなあ、と遡って思いを馳せた。

その時のオランダ全国ストライキは、

・全国の小学校全体がストをして、終日休みになる
・保護者・地域社会もその問題を知っている
→マスコミにも取り上げられている
→大勢の小学校の教員が集まる
→ マスコミにも再び取り上げられている
→社会全体の声になる
の連鎖が、とてもシンプルだった。

留学を終えて5年たった今でもそのハッシュタグでSNSを検索して思い出す。
そして日本で自分の足元でできることを一歩ずつ軽やかに進めようと思う。
あの笑顔に溢れ力強く、明るいロックフェスのようなストライキの雰囲気を思い出しながら。

※ハッシュタグ #pocoderoodで、Twitter・Instagram・Facebookから当時のストライキの様子が見られます。(水谷佳子)

>イエナプランを学ぶオンライン講座

イエナプランを学ぶオンライン講座