第9話 私の見たオランダと働き方(リレーエッセイ)

 私のオランダとの出会いは、夫の海外赴任に帯同したことがきっかけでした。
 その時は、まだイエナプランも全く知らず住みやすい国だということを少し見聞きしていた程度でした。生活にも慣れてきた頃、オランダの子どもの幸福度が高いことを知り、その理由について知りたいという思いが芽生えるようになりました。インターネットを検索する中でイエナプラン教育について知り、そこでリヒテルズさんに連絡を取り、8月の1週間研修に参加することになりました。
 現地のイエナプラン校を実際に目にして、子どもたちや先生たちの生き生きした姿を前に、私は大きな衝撃を受けました。そして、もっと学びたいと思い、第1回目となった3カ月研修にも参加することにしました。

 研修では何度かホームステイを行っていたのですが、その中で小学校の校長先生の家にステイする機会に恵まれました。校長先生のお父さんと、日本で言う特別支援学校で働くお母さん、そして小学生の3人のお子さんという家族構成でした。
 そもそも校長先生の家にホームステイするなんて、忙しすぎて無理なのでは? と思うのですが、そこがオランダならでは! 校長先生なのに、週4日勤務で、水曜日はお休みなのです。そして、夫婦で勤務時間をずらすことで、朝食・夕食の準備や学校、習い事、友達の家に遊びに行く子どもたちの送迎を行っていました。仕事と生活を完全に分業するのではなく、協力して生活と仕事を進める姿にまた大きな衝撃を受けたのです。
 さらに夕方6時頃には家族全員でご飯を食べ、夜7時になると子ども向けのニュース番組をみんなで見てから子どもたちは就寝をします。ちょうどシンタクラース(*)の時期でしたので、お父さんのオルガンに合わせてみんなで歌を歌ったりも・・・。そのような姿を目の当たりにして、話には聞いていたもののオランダ人の働き方や生活の様子に「こんな家族が世の中に存在するなんて!」と、私はただただ信じられない気持ちでいっぱいでした。
 
 それほど衝撃を受けたのには理由があって、自分自身が家族との楽しい時間をあまり思い出すことができなかったからです。物心ついた頃の私の記憶では、仕事が忙しく日付が変わる頃に帰宅することの多かった父や、祖母と同居しながら専業主婦として毎日忙しく家事を行う母の姿しかありません。
 兄弟がいましたし、たまに家族で出かけることもあったので、楽しい思い出が全くないわけではないのですが、忙しく働く両親の笑顔はあまり思い出せず、なんとなく薄暗い霧のかかったような子ども時代でした。そのようなこともあったからか、ホームステイの時間は映画やテレビドラマの中にいるような、そんな感覚を覚えてしまうほどでした。
 
 研修が終わり、私には、日本とオランダではどうしてこんなにも違うのか、理由を知りたいという思いが沸き上がってきました。色々と考えたり調べたりするほど、日本の社会や学校の在り方は理不尽な状況であると、苦しく悲しい気持ちになってしまいました。その後、多くの課題を感じる中で、特に働き方について強い関心を持つようになったのです。

 今、私は小学校で働いています。幸いにも同僚や上司に恵まれ、そして我が子を可愛がってもらえる保育所にも恵まれ、仕事を続けることができています。しかし、いつもお迎えは延長ギリギリに。ついに自分の思いが伝えられるようになってきた娘からは、「ママ、早く迎えに来て。今日は何時に来るの?」と言われるようにもなってしまいました。
 無理をさせているという罪悪感を持ちながらも、仕事が充実している喜びも感じている自分はなんて中途半端なのか・・・いろいろな感情が巻き起こる毎日です。約3年間勤めてみて、大変なことのほうが多いですが(笑)、学校で子どもたちと過ごす時間はやっぱり楽しいです。でも、我が子とも、もっと関わりたいという思いも強くなりました。そして、我が子は特別かわいくて、私の幸せは夫と娘を大切にすることだとはっきりと(やっと?改めて?笑)言えるようになりました。

 オランダで出会ったある先生は、1歳の娘の誕生日のために当たり前にお休みを取っていました。先生と言ってもパートタイムですので、お休みの日にはもう一人の先生がクラスを見ることができます。そして、夫の会社ではフルタイムで働く女性マネージャーがいました。働くママの為にフルタイムからパートタイムに切り替えたパパもいました。きっと、お子さんが大きくなればまたフルタイムで働かれるのではないでしょうか。
 その姿を思い出す度に、ただただ羨ましいという気持ちになってしまうのが正直なところです。日本の先生の働き方には、フルタイムで働くか、働かないか、イチかゼロの選択肢以外はないのでしょうか? それに自分を含めまだまだ多くの学校現場は残業ありきの働き方になっているのが現状でしょう。特に、男性の先生は時間に無理が利くということが前提の働き方を強いられている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 子どもがいる人、独身の人、介護をしている人、みんな違う環境が当たり前なのに、どうしてそれぞれが自分自身の幸せを求めることがこんなに難しいのでしょうか?
 みんなが自分の幸せをもとめられる社会になるために、オランダのような柔軟さは難しくても、まずは家庭をもっているかどうかに関わらず誰もが当たり前に就業時刻で帰れるようになってほしいと思います。学校でも、先生たちが「昔は残業があたりまえだったんだよね~!」と、笑い飛ばせる日が早くきてほしいです。

 学校の働き方は本当に改善を急がなければならない問題だと思っています。現場の先生方は忙しすぎて、自分のことを考える余裕がありません。いい先生ほど心を病んでしまったり、やめてしまったりしてしまいます。
 先日、心の病気になった時の保険を紹介されてひっくり返りそうになりました。教科数を減らすとか、働く人を増やすとか、水曜日の学校は午前中だけにするとか、やらなければならないことなのか、そうでないことなのか、取捨選択し大きな枠で学校を取り巻く制度や環境が変わるよう、できることから始めていきたいと思います。(牧野恵)

(*)シンタクラース=聖ニコラス。サンタクロースの元になった人

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