家庭でできる「本質を観る“対話”」第1回
92歳の母、より良く生きるとは
母はいま92歳です。昨年いよいよ一人暮らしが難しくなり、特別養護老人ホームに入りました。設備も整い、守られている感じはありましたが、母には「手厚すぎる介護」や「今までの生活にはなかったルール」が窮屈でした。最初は「家に帰りたい」と毎日言ってきました。
母と何度も何度も対話をしました。私は人の目が行き届く安心安全が一番だと思っていたのですが、母には「世話をされるだけの人」ではなく、まだ人の役に立ちたいという思いがあり、より良く生きるために自分がどう暮らしていきたいのかを聞き出すことができました。
その結果、今は千葉県にあるグループリビングで暮らしています。そこは「一つ屋根の下で共に生きる」を大切にし、介護度や入居者の事情はまちまちですが、みんなで暮らす場作りを大切にしている場所です。食事や介護など支えてくれるスタッフの方もいて、入居者も自分でできることは自分でやります。
先日、面会に行った日の昼ごはんはカレーでした。みんなでカレー作りをしていて、包丁を使える人はじゃがいもを切り、危なければキャベツを手でちぎっていました。お皿を用意する人、味見をする人、ついおしゃべりに夢中になる人もいて、笑いが絶えません。スタッフは管理的にならないようにしながら、本人の選択をそっと支えています。母ののびのびとした表情を見て、ここなら母らしく暮らせるのだと感じました。
陽の入るリビングでコーヒーを飲む人、洗濯物を干す人、外を掃く人。そんな“あたりまえ”をみんなで営む暮らしがあり、時々は外食や地域の行事、旅行もあります。
この先も母が「一人で静かに過ごす時間」と「人と関わって役割を持つ時間」の両方を無理なく持てることが、母にとっての「より良く生きる」につながっていくのだと思います。



(文・高橋利直)


