第5話 イエナプランスクールにとってはごく当たり前の基盤:シチズンシップ

 イエナプランのコンセプトは、ペーター·ペーターセンが、今から約1世紀前に、イエナ大学で開発した、授業方法と子ども学のモデルである。ペーターセンは、当時、「人間の学校」を実現しようとしていた。子どもたちが<共に生きる>ことを学ぶ学校のことだ。

 彼は、子どもたちが、学校で共に生きるためのスキルを学ばなければならないと考えていた。そのため、イエナプランスクールでは、当然、この理念に従い、子どもたちが、この「共に生きるための」スキルを学んでいく。

 イエナプランスクール以外のさまざまな教育が、イエナプランスクールと同じようにこの点に注意を払っているかというと、決してそうであるとは言い難い。

 

 オランダ政府は、数年前から、学校教育において、シチズンシップ(形成)や社会統合の促進に関心を払い、学校はそのための時間を割いて教えるべきだと指導してきている。人々が、お互いに関心を向け合うこと、市民と政府とがお互いに深く関心を持って関わり合うことは、この数十年間を振り返ってみると、確かに少なくなってきている。

 シチズンシップとして皆が自覚しておかなければならない義務や権利は、時として、はっきり語られることもなく、目に見えない隠れたものになってきているようにさえ思う。しかも、オランダには、外から多くの人々が流入してきているが、こうした人々の中には、シチズンシップを大切にするというオランダの伝統を知らず、シチズンシップを共同社会の中で実際に使い、その考え方を自らの子どもたちに伝えることができない人たちもいるのが現状だ。

 他方、(国際連合の)子どもの権利に関わる国際条約は、すでに25年以上も前に大多数の国によって調印されており、これらの調印国は、子どもたちには市民権があることを認め、子どもたちを大人と同じように「仲間の市民」として受け入れることに同意している。

 こう考えると、私たちが生活している民主社会を子どもたちに教えることは、決して避けることのできない大切なことだとわかる。

ところで、民主制についての教育には、2つの種類がある。

1)民主制度について学ぶもの(第1のタイプのシチズンシップ教育)

 これは、通常、授業や、何か本などに書かれた文章やその他のメディアを通して、国や社会や共同体のあり方について知識を伝達されて学ぶ形式を取る。

 子どもたちに、私たちがその中で生活している民主制とはどういうものか、また、この民主的な制度の中で私たちが共に生み出してきたルールはどういうものかについて、教員たちが伝達して教える。この民主的制度を、私たち人々はどのようにして作ってきたのか、この民主的な組織がこれからもずっと継続して存在していくために、私たちはどんなことに注意を払っていなければならないか、ということについてだ。民主制を理解し維持するには、そこで共有されている価値意識を学ばなければならないし、私たちの民主制にとって脅威となる可能性のあるものとはなんなのかについても学ばなければならない。

 この第1のタイプのシチズンシップ教育は、多くの学校が、ある程度うまく組織できていると思う。そのために、民主的組織について、少しずつ段階を踏みながら子どもたちが学べるように作られた教科書や指導書もある。

2)民主的態度や行動の仕方(第2のタイプのシチズンシップ教育)

 しかし、人間関係をうまく保っていくための社会的スキルや、民主的態度や民主的行動のスキルは、こうしたスキルを実際に使ってみたり応用してみたりするという実践を通さなければ学べない。

 この第2のタイプのシチズンシップ教育をうまく進めていくのは、学校にとって、時として大きな課題になることがある。なぜなら、それを実践するには、学校の中にこれまでとは異なる新しい文化を生み出さなければならないことになるからだ。

 この第2のタイプのシチズンシップ教育を実施できるようにするには、学校や教室は、子どもたちが、民主的な行動を実際にやってみながら学べるような場にならなければならない。つまり、子どもたちにできるだけ多くの責任を持たせ、いろいろな物事について、自分たちで(時には大人と一緒に)決められるようにしておくことが大事なのだ。

 それでももちろん、何かうまくいかないことはしばしば起きるだろう。その度に、いま何が起きているのだろう、次にやるときにはどうすればもっとうまくやれるだろうか、他にもっと良いやり方があるのではないかを、子どもたちと一緒に話し合うことで、子どもたちは、民主的態度とは何かを学べるようになる。

 それこそが真の「学び」なのだ!

イエナプランスクール

 イエナプランスクールでは、その理念に基づいて、初めからとても大きな責任を子どもたちに託すようにしている。それは、イエナプランの理念による学校には欠くことの出来ない重要なものだ。ペーター·ペーターセンは、彼が「人間の学校」と呼んだ理想の学校の姿の基本に、この考えを据えていた。つまり、人間の学校には、ありとあらゆる場面に、子どもたちが自分で責任を持つことを学ばせる仕組みが潜んでいる。

 そこで、以下、イエナプランスクールで行われているシチズンシップ教育とはどのようなものであるか、いくつか例をあげておきたい。

サークル対話

 サークル対話では、「どうすればお互いのこと、また、お互いの背景や文化を尊重し合うことができるか」「どうすれば人々はお互いに対立せずに平和でいられるか」を話し合う。このことは、子どもたちに向けて教員たちが仕事をするときの態度や行動、子どもたちが身につけなければならない良い態度とも直接につながっている。

 子どもたちは、他者に対してどう関わればよいのか、また、自分が信じていることをどう捉え、どう他の人に話したらよいのか、さらに「自分の権利」という時、それは他者の権利とどう折り合いをつければよいのか、皆が平等に関わる対話を通して学んでいく。

 多くのサークル対話は、決まったテーマがあるが、そこでも、誰か1人の子どもがリーダーになって話し合いが進められる。また、サークル対話の終わりでは、そのときのサークルで話し合われた内容について、しばしば、子どもたちが、それぞれどんな感想を持っているかが聞かれる。

 このようにしてサークル対話を重ねていくうちに、子どもたちは、自分の意見とは別に、どんなことにも常に2つの側面があることを知るようになる。誰でも、自分が経験したことについて何かポジティブなことと同時に、まだもっと良くできそうなことを次にやるときのためのヒントとして言える(*次にやる時にはこんなことに挑戦したい、こんなふうに取り組んでみたい、など)ようになる。

 このような対話を常に続けているうちに、子どもたちは、他者からのフィードバックを受け取ることが上手くなるし、意見や感想を受け入れることができるようになっていく。
 

学校のリビングルーム

 ペーターセンは、学校のあるべき姿として、「学校のリビングルーム」という概念を示した。ファミリーグループの部屋、すなわち、教室は、秩序正しく整っており、その場の雰囲気や、お互いに対する関心を払いあう場でなければならない、といっている。

 学校のリビングルームとは、家庭にあるリビングルームを模したものではない。学校は、究極的に、そこにいる人々が「生きて働く共同体」であり、家庭は、「生きるための共同体」としての性質の方がずっと大きからだ。学校のリビングルームでは、対話·遊び·仕事·催しという基本活動が行われる。

 学校のリビングルームをきちんと整えることは、共同体、すなわち、根幹となるファミリーグループの形成にとって欠くことのできない条件だ。

 学校のリビングルームの中に置かれるものをどう設置するかは、まず、そのグループのグループリーダーが教育の場として相応しい形に準備することから始まる。そして、子どもたちがそこに加わり、さらに内装をより良いものにしていく。

 子どもたちは、初めて学校にやってきたその瞬間から、教室の内装は自分たちの意向で変えられるのだということを経験的に感じることができる。また、子どもたちは、この教室をきれいに保っていくことに責任を持っている。

花や植物の面倒を見るのは誰?

この絵はどこにかけるのがいいだろう?

 このような問いかけをグループの子どもたちと話し合いながら決めていくことで、子どもたちが一緒になって、教室の中を常に最善の状態に保っていくことに責任を持つ態度が、育ってくるのである。

誰の責任? 役割ボード

 役割ボードは、その教室を常にきちんと片付いた状態に保つためにしなければならない仕事を、誰がどんな責任を持って担当するのかがわかるようにしたものだ。

 役割の中には、1人でやるには荷が重いものもあるので、そういう場合は、複数の子どもたちが一緒に責任を持つようにする。教室の隅に何かのコーナーが設置されている場合には、その日の終わり、あるいはなんらかの仕事があった時間の終わりに、誰か決まった人がそのコーナーを整理する。こうした整理整頓の役割についても、サークル対話の中で、うまくいっているかどうか、と報告したり話し合ったりする。

子どもが自分で作る週計画

 子どもたちがそれぞれ各自で作る週計画には、その子がその週にする予定の仕事を一覧にして見えるように書き込むことができる。この計画表には、教師が示す課題と子ども自身が取り組みたいと考えて設定した課題との両方が書かれている。

 もちろん、週計画はツール(道具)なのであって、それ自身が目的ではない(*週計画を作ること、週計画をその通りに果たすことが目的なのではなく、週計画を立てることで学びが深まること、学びを効率的に終えられることが目的)。

 週計画には、計画を立てて書き込むための欄だけではなく、振り返って評価するための欄もある。自分の仕事を振り返ることで、子どもたちは、ここでも、自分の仕事に責任を持つということを学んでいる。

ポートフォリオ

 多くの学校では、子どもたちがポートフォリオを使っている。子どもたちは、毎週、自分がとても満足のできた仕事やうまく目標を達成することができたと感じている仕事の成果を、ポートファイルに綴じ込んでいく。そして、単に綴じていくだけではなく、なぜ、その仕事を選んだのかについて考え、他の人にそれを説明する。

学年初めの懇談と中間での懇談

 毎年3回、(どの子についても個別に時間を設定して行う)フォーマルな懇談会が開かれる。これは、子どもと保護者とグループリーダーの3者が、それまでの期間での様子をみんなで振り返り、次の期間には何を目指すかと約束をするための懇談会だ。この話し合いに先立って、3者はそれぞれ、何について特に話し合いたいかを示しておき、それから懇談に臨む。

こども評議会

 大抵のイエナプランスクールには、各ファミリーグループが選んだ代表者から成る「こども評議会」がある。こども評議会は、毎月1回ずつ会議を開き、校長先生もその会に出席する。評議会は、自分たちの中から議長と秘書を選ぶ。

 話し合いのテーマについては、ほとんどの場合、ファミリーグループごとに、事前にすべての子どもたちが参加して話し合っておく。こども評議会でも、また、その前や後に行われるファミリーグループごとの話し合いでも、子どもたちの意見が求められ、子どもたちの間で議論が行われ、民主的な方法で意思決定が行われる。

クラスの金庫

 どのファミリーグループにも、毎学年の初めに、そのグループ全員のものとして、金庫に入れておくための幾らかのお金が手渡される。このお金は、子どもたちがお互いに話し合って何かに使ったり貯めておいたりすものだ。このお金の使途については、ファミリーグループの会議で話し合って決める。こうすることで、子どもたちは、それぞれ皆、自分が他のみんなと一緒にそのお金に責任を持っているのだということを学ぶ。

 こうしてみると、イエナプランスクールでは、シチズンシップ形成が大きな関心の的だということが明らかである。子どもたちは、極めて自然な形で、自由と責任について、意思決定について、また、自分自身を大切にしたり、他者や環境を大切にするにはどうすればよいかを、学んでいる。学校とは、子どもたちが、ごく自然な形で、集団の中で、どうすればお互いに正しく関わり合えるかを学ぶための場所である。

 オランダの教育学者ミシャ·デ·ウィンターは、「子どもたちを、小さい年齢の時から、誰しもたった1人で世界にいるのではないという考えに基づいて養育しなかったら、結局は、人々が皆、常に自分のことばかりを優先するような社会しかできないのは、日の目を見るように明らかだ」と言っている。

 私は、シチズンシップとは教育者が論理的に背負っている当然の課題であると思っている。子どもたちに小さな時から自分で責任を持たせるようにする、子どもたちに大人と一緒に考えたり大人と一緒に話をしたりできるようにするのは、実は、それほど複雑で難しいことではない。

 次回は、上にあげた事柄について、イエナプラン教育では具体的にどう実践しているのかを、さらに実践を示しながら書いていく予定だ。(続く)

イエナプラン 共に生きることを学ぶ学校
イエナプランを学ぶ人の必読書!
「イエナプラン
共に生きることを学ぶ学校」

 

 

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イエナプラン 共に生きることを学ぶ学校

フレーク・フェルトハウズ、 ヒュバート・ウィンタース 著 リヒテルズ 直子 訳

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