第2話 イエナプランはそんなに難しいことじゃない

 イエナプランスクールのグループリーダーたちの仕事ぶりを見るために、私は、いろいろなファミリーグループを訪れる。グループの教室に足を踏み入れた瞬間に、大抵は、それがどんなグループかということがわかるものだ。子どもたちが、教室に入ってくる私に何か不安そうな顔を向け「監察局の人ですか?」と聞くこともあれば、反対に「誰のおじいちゃん?」と聞いてきたり、「何しにきたの?」と聞かれることもある。

 そんな感じで、ある時、私は、アンネ先生の幼稚園グループの教室を訪れた。そこにはイェレという、まだ、学校に通い始めて数日目、他にはどの学校にも通ったことがないという4歳の男の子がいた。

 子どもたちは、ちょうど、元気に外遊びをして、それから、スナックのフルーツを食べ終えたところだった。アンネ先生は、まだ、子どもたちに絵本の読み聞かせをしていた。イェレも黙って注意をして聞いていた。

 それからアンネ先生がこういった。「さあ、仕事の時間よ。みんな、自分の仕事に取り組みましょうね。みんな何をしなければならないかわかっているわね。じゃあ始めて!」すると、教室にいる子どもたちは、とても自然に、自分の仕事に取り組み始めた。みんながかって? イェレはそうじゃなかった。イェレだけは、よくわからない、どうしようという表情で、あたりを見回していた。

 さてどうするだろう? これから何が起きるかな、と私は好奇心を持ってこの様子を見守っていた。このあと、いったい何が起きるだろう?

 アンネ先生は、イェレに、<選択ボード>(*オランダの幼児クラスの教室には大抵かかっているもので、教室や外の廊下に設けられたアクティビティコーナーを示すピクトグラムと、その横に、子供たちが自分でコーナーを選んで名札や自分のことを示す絵や写真などをマグネットやリングでかけられるようになっているもの)のところに来るようにいった。

 先生は、もう一度、その<選択ボード>を指差しながら、どんなアクティビティを選ぶことができるか、イェレに説明した。「ほら見て、これは積み木コーナー、これはままごとコーナー、こっちは工作コーナー、ライティングコーナー、パズルコーナー、お絵かきコーナー、それから絵の具塗りボードはこっちよ」

 「イェレは、自分の名札を取って、好きなアクティビティの絵が描かれているところにかけるのよ。積み木をしたかったら、名札をこうして積み木コーナーの絵の横にかけるの」

 「さあイェレ、今からどれをしたい?」

 イェレは、自分がしたいところを指差している。でも、この写真が素晴らしいのは、先生と子どもの間の関係がよく見えることだ。どちらも相手のことが好きで、お互いに信頼し合っている!

 ファミリーグループリーダーは、子どもたちにとっての良いお母さん、良いお父さんのようなものだと書かれているのを、皆、読んだことがあるだろう。イェレは、まさに学校では、自分の先生が大好きで、先生もイェレのことが大好きなんだ!

 イェレは積み木遊びのところに行きたいといっている。さて、アンネ先生は、イェレをそこに連れていくのだろうか?

 いや、そうじゃない。

 先生とイェレは一緒に教室の方に向き直し、先生がグループの子どもたちにこう声をかけた、「イェレは積み木コーナーに行きたいっていっているんだけど」

 すると、ごく自然に、何人かの子どもたちが近づいてきた。この子たちはイェレを助けに来たのだ。こんな風にしてグループの子どもたちは、お互いに助け合うことを学んでいる。どの子もグループのためにいて、グループは一人一人の子どものためにある。

 ここでとても重要なのは、先生が子どもの問題を自分で解決しようとしていないことだ。グループリーダーは、グループの子どもたち全体が、そのグループにいる全ての子どもたちの学びに責任を持つようになるように仕向けている。

 教師は、子どもたちに「仕える(サービスを提供する)」ためにいるのではない。子どもたちが、ちょっとお尻を突かれていたり、助けてもらっている様子を見るのは、何か落ち着かない嫌なものだ。そこには、何一つ間違ってはいけない、という雰囲気がある。

 カーリング(オリンピック競技である、氷の上の石を移動させる)のプレーヤーのような「カーリングペアレント」のことがよく話題になる。子どもの前に立ちはだかる、ありとあらゆるデコボコした障害を、事前に綺麗に拭い去ってしまう親たちのことだ。人は、間違いや失敗をしたときにとても多くのことを学ぶものだということを考えてみるといい。子どもたちにも間違いや失敗は必要だ!

 子どもたちを甘やかすのはやめて、子どもたちに責任を持たせようじゃないか。子どもたちは、他の子どもたちから力を借りて、自分で学ばなければならない。こんな風にして、人は、助けること、助けられることを学ぶものなのだ。人と人との絆は、こうして生まれるものなのだ。

 こうしてこそ、子ども同士の間にある、とてもたくさんの違いを活かし、自分が努力するだけの価値のある様々な才能を拓かせた、本当のファミリーグループが生まれてくるのだ。こうして、ホンモノのファミリーグループの中に、年少者、年中者、年長者という役割分担が生まれてくる。

続く

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