老いについて(4)大村祐子

イラスト/大村祐子

 この小文の連載「老いについて」は最終回を迎えました。前号まで、高齢になると私たちは必然的に〈小さな暮らし〉になってゆくことを確認いたしました。
 今回、私は皆さまにユニークな〈小さな暮らし〉の試みをご紹介いたします。
 それは、「大里綜合管理株式会社(千葉県大網白里市)」という不動産会社の試みです。
 大里綜合管理株式会社は不動産会社ですが、カルチャースクールやレストラン、音楽コンサートや落語などのイベントを行うなど、地域のコミュニティセンターとしての役割も担っています。

 私とこの会社の会長の野老真理子さんは、コロナ禍がすでに半年以上続き、外出、外食、外飲み、またコンサート、演劇、落語などステージでの活動、スポーツ大会の自粛が求められ、そのような中で職を失い、住む場所を失って困難に直面している方々を助ける方法はないものかと考えました。

 以下、私と真理子さんとの会話です。
真理子「祐子さん、その人たちに〈一月13万円の暮らし〉を提案しましょうよ!」
祐子「ええっ、一月13万円で暮らすの? いくら千葉だって、アパートの賃貸料は安くても5万円くらいはするでしょ? 残りの8万円で健康保険料、厚生年金保険料、住民税などを払って生活できるかしら?」
真理子「家のことは任しておいて。私が賃貸料3万円のアパートや一軒家を探すから!大家さんが渋ったら、私が説得するわ」「本人がどんな仕事でもしよう! という気持ちで仕事を選り好みしなければ、手取り13万円くらいの仕事はいくらでもあるもの。もちろん、私たちも仕事を探すお手伝いをしようと思うし…。それに、うちの会社が管理している土地の草刈りの仕事だったら、今すぐにでも始めてもらえるわ」
祐子「ワオー、素晴らしい!」「じゃあ、真理子さん、すぐ家賃3万円の家探しを始めてね」「そして、〈13万円で暮らす〉プロジェクトに応募するために必要なこと、また契約時の条件などを考えてちょうだいね!」「私は真理子さんのアイディアを文章にして広報するわ」「同じ地域や、同じアパートで、大勢の人が暮らせるといいわね。そうしたらみんなで助け合えて、小さなコミュニティーができるわ!」
真理子「ただし、何でもかんでも人の世話になろうという人は遠慮してもらいましょうね!」「自分の力で小さな暮らしをして生きていこう!って決めた人に仲間になって欲しい」「まずはしっかり働いて、一月13万円の収入を得られる人!」「もちろん、家族がいる人は13万円以上の収入が見込める仕事を探さないとね」
祐子「このプロジェクトに参加するための条件はどうしましょうか?」
真理子「そうねえ…
 1・生活費は自分が仕事をすることで賄う
 2・仕事を選ばない
 3・仲間同士で助け合い、支え合う
 4・いつもポジティブに生きる」
祐子の独り言「このプログラムが軌道に乗って、一人暮らしのお年寄りも仲間に入ってもらえるようになるといいなあ〜。将来はきっとそうなる…」
 大網白里市は外房線の大網駅を中心に、九十九里浜に向かって南北に広がる、それはそれは空が大きく広くて、田んぼや畑が多く、低い緑の丘に囲まれた素晴らしい場所です。
 ここで「小さな暮らし」をしたいと思われる方は、どうぞ、「大里綜合管理株式会社・小さな暮らし係」(連絡先は下記ホームページを参照)にご連絡ください。

 コロナ禍が続く中で、皆さまはきっとこれから世の中はどのように変わってゆくのだろう、と不安の中でお暮らしのことでしょう。
 人類はこれまでのようにますますテクノロジーを発達させ、私たちの生活はAI中心の生活になってゆくのか? 競争原理社会の中で能力に恵まれない人は低級市民として暮らしてゆかなければならないのか? IT化が進む教育の中で心穏やかで常に他人を想う利他主義の人間が育つのだろうか? 私たちは助け合い、支え合って生きてゆけるのか?

 「老いについて」と題したこの小文の中で、私は二つの気づきを書きました。一つは「老いては〈小さな暮らし〉をすることがふさわしい」。そしてもう一つは「人は多くのことを他人に負うて生きている、地球上の全ての人が支え合い、助け合って生きている」ということでした。人類を襲ったこのコロナ禍のパンデミックによって、私たちは負の意味でも正の意味でも、地球のグローバル化を骨身に染みて体験しました。
 一つの都市で流行し始めた新型コロナウイルスは瞬く間に世界中を席巻しました。そして私たちは自国だけを守ろうとしてもそれが不可能だということも体験しました。
 また、新型コロナウイルスには、戦火を逃れた多くの避難民や、貧民街で暮らしている多くの貧しい人々が感染しました。
 コロナ禍は、私たち高齢者だけにではなく、全ての人に〈小さな暮らし〉をし、地球が与えてくれる恵みをみんなで分け合うように、求めているような気がしてなりません。しかし、どのような生き方を選ぶかは、私たち一人ひとりに選択する自由があり、私たちの選択によって、これからの世の中のあり方が決まるのです。

 4回に亘って書かせていただきました小文をお読みいただき、ありがとうございました。皆様とご一緒に考えたいことはまだまだ山ほどあります。ご縁がありましたら、いつかまたどこかでお目にかかることがありましょう。どうぞ、健やかな時も、病める時も、心穏やかにお暮らしくださいますよう、心より祈っております。誠にありがとうございました。(完)

北海道中川郡本別町にある「ソフィア・ファーム」でも北海道の素晴らしい自然の中で〈小さな暮らし〉の試みが始められています。
(詳細はどうぞホームページで検索してください)

大里綜合管理株式会社 http://www.ohsato.co.jp/
ソフィア・ファーム・コミュニティー http://www.sophiafarmjp.com/

大村祐子(おおむらゆうこ)
1945 年生まれ。 アメリカ、サクラメントのルドルフ・シュタイナー・カレッジにてシュタイナー学校教員養成を学ぶ。その後、現地のシュタイナー学校で教える。1998 年帰国し、北海道伊達市で人智学共同体「ひびきの村」を立ち上げ主宰。2011年「ひびきの村」から退いて神奈川に移り、執筆、講演、ワークショップ、講座などを続ける。現在、一般社団法人「コネクト・ビレッジ」を立ち上げ、人智学を基に運営される「小さな暮らし・ハウス」のスタートを目指す。著書多数。